日本の労働市場において、外国人材の受け入れは重要な課題。
2024年、新たな制度として「育成就労制度」が導入されることが決定しました。
この制度は、既存の外国人技能実習制度に代わるものとして注目を集めています。
本記事では、育成就労制度の概要や背景、そして既存の制度との違いについて詳しく解説します。
■育成就労制度とは
育成就労制度は、外国人材の受け入れと育成を目的とした新しい制度。
この制度は、日本の労働力不足に対応しつつ、外国人労働者の権利を保護し、より良い労働環境を提供することを目指しています。
■制度の概要
1. 目的: 育成就労制度の主な目的は、外国人材の育成と日本企業における人材確保です。
単なる労働力の確保だけでなく、技能や知識の習得を重視しています。
2. 在留期間: 原則として3年間の在留が認められます。
これは、十分な技能習得と経験のための期間として設定されています。
3. 対象分野: 特定技能制度への移行を目指す制度であるため、国内の育成になじまない分野は対象外としていくとされています。
特定産業分野に含まれる介護や建設業に加え、新たな産業分野の追加も検討されています。
4. 転籍可能: 技能実習制度と異なり、育成就労制度では一定の条件下で転籍が可能です。
技能実習制度でも転籍は可能でしたが、手続きが柔軟化される・要件が明確化されるため、これまでよりもより労働者の権利が保護されることになるでしょう。
5. 日本語能力要件: 入国時に一定レベルの日本語能力が求められます。
これは、円滑なコミュニケーションと技能習得を促進するためです。
具体的には、日本語能力A1相当以上(日本語能力試験N5レベル)の能力が必要となります。
6. 賃金: 日本人と同等以上の賃金が保証されます。
これは、外国人労働者の権利保護と公平な労働環境の確保を目的としています。
育成就労制度は、外国人材の育成と確保を主な目的とした新たな制度です。
この制度下での在留期間は原則3年間と設定されており、相当の理由があれば最大1年間の延長が可能。
日本語能力に関しては、段階的な向上が求められます。
入国時にはN5相当以上の能力が必要とされ、1年目終了時にはN5の合格、そして3年目終了時にはN4の合格が要件となります。
日本語でのコミュニケーションは不可欠であるため、この制度では日本語能力の向上を継続的な学習によって行うことが求められています。
そして、技能面においても、同様に段階的な習得が求められます。
1年目終了時には技能検定試験の基礎級合格が、3年目終了時には技能検定3級または特定技能1号評価試験の合格が要件となっています。
この仕組みにより、外国人材の技能レベルの向上と、日本の産業界のニーズへの適合が図られることとなります。
また、本制度の大きな特徴として、一定の条件下での転職が可能となることが挙げられます。
現行の技能実習制度でも転籍は可能とされていましたが、新制度ではその条件がより明文化されることに。
具体的には、1年以上の就労期間や必要な技能・日本語水準の達成などの条件を満たせば、同一業種内での転職が認められます。
これは、これまでの課題でもあった外国人労働者の権利保護と労働環境の改善につながる重要な変更点であるといえるでしょう。
■制度改正までの背景や育成就労制度の施行時期
育成就労制度の導入背景には、既存の外国人技能実習制度が抱える深刻な問題がありました。
外国人技能実習制度では、これまで長年にわたり、制度下での人権侵害や労働力の搾取が指摘され、国内外から改善を求める声が高まっていました。
なかには、残念なことに事件となってしまった事案もあります。
こういった状況を受けて、政府は2023年から2024年にかけて有識者会議を開催し、新制度の必要性と具体的な内容について議論を重ね、専門家や関係者からの意見を広く取り入れ、より公正で効果的な制度設計を目指しました。
そして、2024年の通常国会において、育成就労制度の導入に関する法案が可決。
新制度は2025年から2026年にかけて、制度の方針が策定される予定となっており、より具体的な条件が設定されることとなります。
育成就労制度は2027年から2030年まで段階的に導入される予定のため、既存の技能実習生に対しても、新制度への円滑な移行を可能にするための期間が設けられています。
これにより、制度の変更による混乱を最小限に抑え、外国人労働者の権利保護と日本の労働市場のニーズの両立を図ることが期待されています。
■育成就労制度と外国人技能実習制度の違い
育成就労制度は、既存の外国人技能実習制度とは多くの点で異なります。
以下に主な違いをまとめます。
1. 制度の目的:
• 技能実習制度: 主に開発途上国への技能移転
• 育成就労制度: 人材育成と日本企業の人材確保
2. 在留期間:
• 技能実習制度: 最長5年
• 育成就労制度: 原則3年(延長の可能性あり)
3. 転籍の可否:
• 技能実習制度: 原則不可
• 育成就労制度: 一定条件下で可能
4. 日本語能力要件:
• 技能実習制度: 入国時の要件なし
• 育成就労制度: 入国時に一定レベルの能力が必要
5. 対象職種:
• 技能実習制度: 91職種167作業
• 育成就労制度: 特定技能と同一の14分野
6. 受入れ人数枠:
• 技能実習制度: 企業規模に応じた上限あり
• 育成就労制度: より柔軟な受入れ枠(詳細は今後決定)
これらの違いは、育成就労制度が外国人労働者の権利保護と日本企業の人材ニーズのバランスを取ろうとしていることを示しています。
また、育成就労制度の導入により、以下のような効果が期待されています。
1. 労働者の権利強化:転籍の自由や適切な賃金保証により、労働者の権利が強化されます。
2. 技能習得の促進:日本語能力要件や育成に重点を置いた制度設計により、コミュニケーションを円滑にし、より効果的な技能習得が可能になります。
3. 企業の人材確保:日本企業にとって、より長期的な視点での人材確保が可能になります。
4. 国際協力の推進:開発途上国の人材育成に貢献し、国際協力を推進する効果も期待されています。
一方で、新制度の導入に伴い、以下のような課題も指摘されています。
1. 既存の技能実習生への対応:現在の技能実習生をどのように新制度に移行させるかが課題となっています。
2. 受入れ企業の負担:新制度に対応するための体制整備や教育プログラムの開発など、企業側の負担増加が懸念されています。
3. 監督体制の整備:労働者の権利を確実に保護するための監督体制の整備が必要です。
4. 地域社会との共生:増加する外国人労働者と地域社会との共生をどのように実現するかも重要な課題です。
育成就労制度は、日本の労働市場と外国人材受入れの在り方に大きな変革をもたらす可能性があります。
この制度が成功するかどうかは、政府、企業、そして社会全体の取り組み次第といえるでしょう。
今後は、制度の詳細な運用ルールの策定や、既存の技能実習生の移行支援など、具体的な施策の実施が進められていくことになります。
また、制度の効果を定期的に検証し、必要に応じて改善も議論されることでしょう。
労働人材が不足しつつある日本社会の持続的な発展と国際協力の推進のため、この育成就労制度が果たす役割に大きな期待が寄せられています。
それと同時に、この制度が外国人労働者の権利を守り、彼らにとっても魅力的なものとなるよう、継続的な改善が必要不可欠です。
育成就労制度は、決して企業や労働者のためのものだけではありません。
私たち日本社会で暮らす人の未来にとって重要な施策であるといえるでしょう。
この新制度を注視し、その効果と課題を適切に評価していくことが、今後の日本社会にとって重要な課題となるのです。