■外国人技能実習制度とは
▼外国人技能実習制度の概要
外国人技能実習制度は、1993年に創設された制度で、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年間)受け入れ、日本の産業等に関する技能等の修得・習熟・熟達を図るものです。
この制度が設立された背景には、1980年代後半から1990年代初頭にかけての日本のバブル経済期における深刻な労働力不足がありました。当時、多くの企業が外国人労働者の受け入れを求めていましたが、政府は単純労働者の受け入れに慎重な姿勢を示していました。
そこで、国際貢献と人材育成を名目とした技能実習制度が導入されたのです。
制度創設以来、技能実習生の数は着実に増加しています。2011年末には約14万人だった技能実習生の数は、2021年10月末時点で約35万人に達し、日本で働いている外国人労働者の約20.4%を占めるまでになりました。
この10年間で2.5倍以上に増加したことになります。
出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】
(令和4年 10 月末現在)P2
また、技能実習制度の対象職種も拡大しています。
制度設立当初は製造業や建設業が中心でしたが、現在では農業、漁業、介護など幅広い分野に広がっていて、現在では90程度の職種で最長5年間働くことができます。
しかし、制度の拡大に伴い、様々な問題も顕在化してきました。
賃金の未払いや人権侵害の問題、さらには技能実習生の失踪や不法就労などの問題が指摘されています。
これらの問題に対応するため、2017年11月には技能実習適正化法が施行され、技能実習生の保護強化が図られました。
このように、外国人技能実習制度は日本の労働市場と国際貢献の両面で重要な役割を果たす一方で、制度の適正な運用と技能実習生の権利保護が課題となっています。
▼外国人技能実習制度の目的
外国人技能実習制度の主な目的は、日本で培われた技能、技術、知識を開発途上地域等へ移転し、その経済発展を担う「人づくり」に寄与することです。
ここでいう「人づくり」とは、技能実習生が日本で習得した技能等を帰国後に母国で活かし、自国の産業発展や企業の生産性向上に貢献できる人材となることを指します。
この制度は国際協力・国際貢献の一環として位置付けられており、技能実習生自身の職業生活の向上や、母国の産業・企業の発展に寄与することが期待されています。
しかし、制度の基本理念に反して、技能実習制度が国内の人手不足を補う安価な労働力の確保手段として使われてしまうケースが懸念されてきました。
そのため、技能実習法には「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と明記されています。
さらに、低賃金、長時間労働、雇用者による暴力などの人権侵害問題も指摘されており、これらの問題に対処するため、2017年に技能実習法(正式名称:外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)が施行され、技能実習生の保護強化が図られました。
制度の目的達成のためには、技能実習生が適切な環境で技能を習得できるよう保護を図るとともに、単なる労働力としてではなく、将来的に母国の発展に貢献する人材として育成していくことが重要といえます。
▼外国人技能実習制度の主な特徴
外国人技能実習制度は、日本の技術や知識を世界に広める重要な役割を果たしています。
しかし、この制度には理想と現実のギャップが存在し、労働力不足の解消手段として利用されることもあります。
制度の特徴を理解することで、国際貢献と国内の労働市場とのバランスをどのように取るべきか考える手助けとなるでしょう。
ここでは、技能実習制度の4つの主な特徴について見ていきます。
雇用関係の下での技能等の修得:
技能実習生は、日本の企業や事業所と正式な雇用契約を結びます。これにより、以下の点が保証されます。
・日本の労働関係法令が適用され、最低賃金、労働時間、休日、社会保険などの労働者としての権利が保障されます。
・実践的な職場環境で、実際の業務を通じて技能を習得できます。
・雇用契約に基づく報酬を受け取ることができ、経済的な自立が可能となります。
最長5年間の実習期間:
技能実習は最長5年間行うことができます。通常は3年間ですが、一定の要件を満たせば2年間の延長が可能です。
技能実習の期間は段階的に設定されています:
・第1号技能実習:入国1年目(在留期間は最長1年)
・第2号技能実習:入国2・3年目(在留期間は最長2年)
・第3号技能実習:入国4・5年目(在留期間は最長2年)
第2号および第3号への移行を技能実習生が希望する場合は、それぞれ所定の試験に合格する必要があります。
これにより、段階的かつ体系的な技能の習得が可能となります。
技能実習計画に基づく実習の実施:
技能実習は、事前に認定された技能実習計画に基づいて行われます。
この計画には、修得する技能の内容や到達目標などが明記されています。
技能実習計画は、実習実施者(受入企業等)が作成し、外国人技能実習機構の認定を受ける必要があります。
計画には以下の内容が含まれます:
・技能実習の目標、内容、期間
・技能実習生の区分(第1号、第2号、第3号)
・技能実習の実施に関する責任者の氏名
・技能実習生の待遇(報酬、労働時間、休日等)
この計画に基づいて実習が行われることで、体系的な技能習得が可能となり、また技能実習生の権利も保護されます。
監理団体による監督・支援:
多くの技能実習生は、監理団体を通じて受け入れられます。監理団体は、技能実習の実施状況を監督し、技能実習生と実習実施者の双方を支援する役割を果たします。
監理団体の主な役割は、以下の通り。
・技能実習生の受入れから帰国までの一貫した支援
・実習実施者(受入企業等)に対する定期的な監査の実施
・技能実習生からの相談対応や生活支援
・技能実習計画の作成支援や認定申請の代行
こうした監理団体の存在により、技能実習生の権利保護と適切な技能習得環境の確保が図られています。
■外国人技能実習制度のこれまでとこれから
▼外国人技能実習制度はいつから始まった?
外国人技能実習制度は1993年4月に正式に創設されました。
しかし、その起源は1960年代後半にさかのぼります。当時、日本企業の海外進出に伴い、現地法人の社員教育として外国人向けの研修が実施されていました。
1990年には、団体監理型による外国人研修生の受入れが開始。これが現在の技能実習制度の原型となりました。
1993年の制度創設時は、研修1年と技能実習1年の計2年間でしたが、1997年には技能実習期間が2年に延長され、合計3年間となりました。
2010年7月には、在留資格「技能実習」が新設され、技能実習生の法的保護と法的地位の安定化が図られました。
そして2017年11月、技能実習法(正式名称「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」)が施行され、新たな技能実習制度がスタートしました。
この新制度では、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護が強化されました。
また、優良な監理団体・実習実施者での実習期間が最長5年に延長されるなど、制度の拡充も図られています。
技能実習制度は、日本の技能、技術、知識を開発途上国へ移転し、その経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的としています。
また、労働力不足を補う手段として使用されないよう、法律で明確に規定されています。
▼外国人技能実習制度のいま
▽どの国からの受け入れが多いのか
外国人技能実習制度の目的が「開発途上地域等の経済発展を担う人材育成への貢献」であることから、主にアジア諸国との取り決め・受け入れが多くあります。
技能実習生の来日が多い対象国
出典:「出入国在留管理をめぐる近年の状況」P11
特に、ベトナムが最も多くの技能実習生を送り出しており、その後に中国やインドネシア、フィリピンが続いています。
▽外国人技能実習生はどんな業界で働いているのか
外国人技能実習生は、日本の様々な産業分野で働いています。
主な業界としては、製造業、建設業、農業、漁業、食品製造業、繊維・衣服関連産業、そして近年では介護分野も加わっています。
製造業では、自動車部品や電子機器の組立てなど、多岐にわたる分野で技能実習生が活躍しています。
建設業では、型枠工や鉄筋工などの技能を習得しながら、日本のインフラ整備に貢献しています。
農業分野では、野菜や果物の栽培、畜産などの作業に従事し、日本の食料生産を支えています。
漁業では、漁船での作業や水産加工などの技能を学んでいます。
食品製造業では、日本の食文化に触れながら、食品加工や製造の技術を習得しています。
繊維・衣服関連産業では、縫製や織布などの技能を学び、日本のファッション産業を支えています。
最近では介護分野でも技能実習生の受け入れが始まり、高齢化社会の日本で重要な役割を果たしつつあります。
これらの業界で技能実習生は、日本の高度な技術や知識を学びながら、同時に日本の労働力不足を補う重要な存在となっています。
しかし、その一方で労働環境や待遇の問題など、制度の適正な運用に関する課題も指摘されています。
また、技能実習制度の主な目的である「技能の習得」において、実習生たちは様々な分野の技術取得を目指しています。
具体的には、機械加工や溶接、塗装といった製造業関連の技能、建築大工や型枠施工などの建設業に関わる技能があげられます。
また、農作業や漁業、食品加工など第一次産業に関連する技能も重要です。
さらに、縫製技術や近年需要が高まっている介護技能なども、実習生が習得を目指す主要な技能となっています。
これらの技能は、実習生の母国の産業発展にも寄与することが期待されています。
▼外国人技能実習制度はこれからどうなる?
外国人技能実習制度は、国際貢献と人材育成を目的として創設されましたが、現在では様々な課題に直面しています。
国の視点からは、制度の本来の目的である技能移転と人材育成が十分に達成されているか疑問が呈されています。
また、人権侵害や労働搾取の問題も指摘されており、制度の適正化と監督強化が求められています。
企業側では、人手不足解消の手段として制度を利用する傾向が見られ、本来の趣旨から逸脱しているケースもあります。
一方で、技能実習生の受入れに伴う管理負担や言語・文化の壁に苦慮する企業も少なくありません。
外国人技能実習生にとっては、技能習得の機会と経済的利益を得られる反面、労働環境や待遇面での問題、日本社会への適応の困難さなどの課題があります。
▼新しい制度「育成就労制度」の施行が決定
外国人技能実習制度は、人権侵害や労働搾取などの問題が指摘され、国際的な批判を少なからず受けてきました。
これらの課題に対応するため、日本政府は2024年6月、「育成就労制度」への移行を決定しました。
この新制度は2027年までに施行される見込みで、主な変更点には以下があります。
・目的を「人材育成・確保」に変更
・対象職種を特定技能と同じ16分野に限定
・転籍制限の緩和
・入国時の日本語能力要件(N5レベル)の設定
・監理団体に代わる登録支援機関の導入
育成就労制度では、外国人労働者の権利保護が強化され、キャリアパスの明確化や特定技能への移行がスムーズになります。
一方で、企業側には採用コストの増加や労働環境改善の必要性など、新たな課題も生じる可能性があります。
■国際的に重要な役割を持つ「外国人技能実習制度」、これからどうなるのか
外国人技能実習制度は、日本の技術を世界に広める重要な役割を果たしています。
しかし、制度の運用にはいまも多くの課題が存在しています。
来日した実習生たちは、製造業や建設業、農業、介護など様々な分野で技能を習得し、母国の発展に寄与することが期待されていますが、低賃金や労働環境の問題が指摘されており、実習生の権利保護が急務といえるでしょう。
私たちがこの制度について考えるとき、国際貢献と人材育成の理想を実現するために何が必要なのか、その重要性と責任を理解する必要があります。
また、これから外国人技能実習生の受け入れを考えている企業においては、特に、この制度を理解しようとする姿勢が強く求められます。