最近では多くの業界で、外国人技能実習生が働く姿を目にする機会が増えました。
その一方で、彼らをとりまく環境には少なからず問題もあり、時にそれが引き金となりトラブルや事件につながる例も耳にする人も増えたのではないでしょうか。
この記事では、外国人技能実習生が現在の日本社会でどれくらい活躍の場があるのか、そしてそこに内包される課題や問題にはどんなものがあるのかを見ていきます。
企業や雇用主に限らず、受け入れ国に暮らす私たち一人ひとりが関係する問題として考えてみてください。
■外国人実習生はどのような業界でどれくらい受け入れられているのか
外国人技能実習生は、日本の様々な産業分野で受け入れられています。
主な業界と受入れ状況をまとめると以下のようになります。
出典:外国人技能実習機構「令和4年度外国人技能実習機構業務統計」P3職種別 計画認定件数(構成比)
製造業:
製造業は多くの技能実習生を受け入れている業界です。
食品製造、金属製品製造、機械・金属加工、電気・電子機器組立て、繊維・衣服、プラスチック成形など、幅広い分野で技能実習生が活躍しています。
ベトナム、中国、インドネシア、フィリピンなど、さまざまな出身国から実習生が来日し製造業に従事しています。
<仕事の一例>
・自動車部品の組立て
・電子機器の製造・検査
・金属加工(プレス、溶接、切削など)
・食品加工(惣菜製造、水産加工など)
・プラスチック成形
・繊維製品の縫製
建設業:
建設業は技能実習生の受入れが多い業界の一つで、実習生全体の20%ほどが従事しているといわれています。
型枠施工、鉄筋施工、とび、左官、配管などの職種で技能実習生が働いており、建設業界の人手不足対策としても重要な役割を果たしています。
<仕事の一例>
・型枠施工(コンクリート型枠の組立て・解体)
・鉄筋施工(鉄筋の加工・組立て)
・とび(足場の組立て・解体)
・左官(壁や床の塗装)
・配管(給排水管の取り付け)
・塗装(建物の内外装塗装)
農業:
農業分野では、耕種農業(野菜、果樹、米など)や畜産農業で技能実習生が受け入れられています。
季節性の高い作業や労働集約的な作業を中心に従事しています。
<仕事の一例>
・野菜の栽培・収穫(施設園芸、露地栽培)
・果樹の栽培・収穫
・米の栽培・収穫
・畜産(酪農、養豚、養鶏など)
・農産物の選別・包装
介護:
2017年11月から技能実習対象職種に追加された介護分野では、高齢者施設などでの介護サービスに従事する技能実習生が増加傾向にあります。
この背景として、日本の急速な高齢化に伴い、介護需要が急増している一方で、少子化や若者の介護職離れにより、介護人材の確保が困難になっていることがあげられるでしょう。
厚生労働省の推計によると、2025年には約34万人の介護人材が不足すると予測されており、外国人技能実習生をはじめとした海外人材の受け入れを早急に検討すべき業界の1つが、この介護業界といえるでしょう。
また、日本と同様に、アジアを中心とする開発途上国でも高齢化が進んでおり、将来的に介護需要が高まることが予想されています。
日本の先進的な介護技術を学んだ技能実習生が帰国後、自国の介護サービス向上に貢献することが期待されています。
しかし、高齢者やその家族と密に接する機会の多い介護業界では、技能実習生にも他の職種よりも高い日本語能力が求められます。
入国時にN4レベル相当以上、介護福祉士国家試験の受験資格を得るためにはN3レベル以上の日本語能力が必要とされており、他の業種と比較しても高い言葉の壁があることも課題の1つといえます。
漁業:
沿岸漁業や養殖業などで技能実習生が活躍しています。漁船での作業や水産加工などの技能を学んでいます。
食品製造業:
食品加工や製造の技術を習得する技能実習生が多く、日本の食文化に触れながら技能を学んでいます。
繊維・衣服関連産業:
縫製や織布などの技能を学ぶ技能実習生が多く、日本のファッション産業を支えています。
サービス業:
ビルクリーニングなど、一部のサービス業でも技能実習生の受入れが行われています。
このように、外国人技能実習制度は、日本の産業界に深く根付き、今や欠かせない存在となっています。
製造業、建設業、農業をはじめとする様々な分野で、技能実習生たちは日本の高度な技術や知識を学びながら、同時に深刻な労働力不足を補う重要な戦力となっています。
2021年の統計によると、約35万人の技能実習生が日本で働いており、日本の外国人労働者全体の約20%を占めるまでに至りました。
彼らの存在は、日本の産業競争力の維持と向上に寄与するだけでなく、国際貢献と人材育成という制度本来の目的にも沿うものです。
技能実習生たちは、日本で習得した技能を母国に持ち帰り、自国の経済発展に貢献することが期待されています。
しかし、この制度の拡大に伴い、労働環境や人権に関わる課題も浮上しています。
技能実習生の権利を守りつつ、制度の本来の目的を達成するバランスの取れた運用を行うことが、取り組むべき大きな課題です。
■外国人技能実習生の主なトラブルとその背景
外国人技能実習制度は、1993年の創設以来、拡大を続け、今では日本国内の多くの産業において欠かせない存在となりつつあります。
しかし、その制度の運用には課題も多く、トラブルも少なくありません。
よくあるトラブルの事例としては、賃金の低さ、犯罪、失踪などがあげられるでしょう。
まず、賃金の問題についてです。
技能実習生が受け取る賃金は、しばしば最低賃金以下で支給されることがあるようです。このような状況の背景には、企業の経営圧力や監理団体による指導不足があり、その結果として実習生の権利侵害を引き起こしているのです。
この問題については、労働基準監督署による監査の強化や、技能実習生への労働法教育を徹底する必要があります。
また、決して外国人技能実習生に限ったことではありませんが、犯罪に関する報告も少なくありません。
技能実習生による窃盗や雇用主に対する暴力事件などがこれまでに報告されており、その特徴としてあげられるものの1つに、経済的困窮や言語の壁からくるストレスがあります。
母国を離れ遠く日本で働いている技能実習生にとって、職場はもちろん生活には不安やストレスが少なくないことは、私たちも想像できるところでしょう。
本来であれば、こうしたケアやサポートを行うことやその制度の一刻も早い整備が求められるべきところではありますが、実態としては、彼らを受け入れている雇用主による不適切な管理やトラブルが発生することも。
小さなトラブルが積み重なり大きな事件を引き起こす可能性もあることや、人種などの差別は決して許されるものでないため、受け入れ先雇用者への人権教育も早急に改善すべき課題といえるでしょう。
そして、失踪に関する問題も報告されています。
劣悪な労働環境や抱えきれなくなったストレスから逃げ出したいという技能実習生のなかには、職場から失踪し、不法滞在者となるケースも少なくありません。
驚くべきことに、2018年には約9,000人の失踪が報告されており、その背景には高額な渡航費用や送出し機関による不適切な情報提供があります。
これらのトラブルに対処するためには、制度全体の見直しと関係者全ての意識改革が不可欠です。
この制度の本来の目的である、技能習得を通じて国際貢献を果たせるような環境を整えることが求められています。
また、制度の適正な運用と技能実習生の権利保護を両立させるためには、職場や雇用主だけでなく、社会全体での取り組みが必要です。
■実際にあった外国人技能実習生に関するニュース
▼ベトナム人技能実習生孤立出産事件
2020年に熊本県で起きた「ベトナム人技能実習生孤立出産事件」は、外国人技能実習制度の問題点を浮き彫りにした衝撃的な出来事でした。
この事件は、20代のベトナム人女性技能実習生が一人で出産し、死産であった双子の新生児を自宅に安置したことが死体遺棄にあたるのかどうかを最高裁まで争った事件です。
誰にも妊娠・出産の事実を告げることができなかったこの事件の背景には、技能実習生が置かれた厳しい状況がありました。
妊娠が発覚すれば帰国させられるのではないかという不安や、医療費の負担への懸念から、妊娠を隠し続けるしか方法がないと彼女は考えていました。
残念なことですが、実際に妊娠を理由に技能実習を中止させられるケースが少なくありませんでした。
しかし、このような扱いは法律違反です。
外国人技能実習制度運用要領には、「技能実習生が妊娠し、又は出産した場合について、それらを理由として不利益な取扱いをしてはならない」と明記されています。
にもかかわらず、多くの技能実習生や受入れ企業がこの規定を知らず、または無視していたのが実態でした。
この事件は最高裁判所による逆転無罪の判決となりましたが、この悲しい事件を契機に、技能実習生の権利保護や生活支援の重要性が再認識されました。
言語や文化の壁、孤立した環境、そして制度に関する正確な情報の不足など、技能実習生が直面する様々な課題が明らかになりました。
今後は、技能実習生の人権を尊重し、適切な支援体制を整備することが急務となっています。
同時に、受入れ企業や監理団体への教育も強化し、制度の本来の目的である技能移転と国際貢献を実現することが求められています。
▼岡山ベトナム人技能実習生暴行事件
約2年間の暴行を複数の日本人従業員から受けていたことが発覚した、岡山ベトナム人技能実習生暴行事件。
岡山市内にある建設会社で起きたこの事件は、実習生の男性を安全靴で蹴り肋骨骨折の重傷を負わすなど日常的な暴行が行われたことで、傷害罪・暴行罪で4人の日本人が書類送検されました。
家族や周りの実習生に迷惑をかけたくないからと誰にも相談できなかった被害男性。
暴力は決してあってはならないことですが、彼らが来日した背景や日本でのコミュニケーションの難しさなどから、本来するべきでない我慢を強いられたり、周囲が不当に扱ったりすることが日常となっていたのかもしれません。
彼はいまでは他県の団体に保護され日本で働いていることが報道されていましたが、この事件までとは言わずとも不当な扱いを受けたりトラブルの被害にあったりしている実習生は少なくないと想定されます。
■外国人技能実習生を受け入れる企業に求められる姿勢
外国人技能実習生を受け入れる企業には、単なる労働力としてではなく、国際貢献と人材育成の観点から、技能実習生の成長を支援する姿勢が求められます。
まず、日本人従業員と同等の待遇を提供することが基本です。
これには、適切な賃金、労働時間、休暇の保証だけでなく、職場での平等な機会と尊重も含まれます。
また、言語や文化の壁を乗り越えるためのコミュニケーション努力も重要です。
日本語教育の支援や、必要に応じて通訳を介したコミュニケーションの確保など、技能実習生が安心して働ける環境づくりが必要です。
さらに、体系的な教育制度の構築と、専門の教育担当者の配置も求められます。
技能実習計画に基づいた段階的な技能習得プログラムを用意し、定期的な評価とフィードバックを行うことで、技能実習生の成長を支援します。
このような取り組みを通じて、技能実習生は単に技能を習得するだけでなく、日本の企業文化や働き方も学ぶことができます。
そして、帰国後にはその経験を活かし、母国の発展に貢献することが期待されます。
受入れ企業にとっても、国際的な視野を持つ人材の育成や、グローバルなネットワークの構築につながる可能性があります。
技能実習制度を通じた人材育成は、日本と技能実習生の母国双方にとって価値ある取り組みとなり得ます。
企業には、この制度の本来の目的を理解し、技能実習生の成長と自社の発展を両立させる姿勢が、今後一層求められていくことでしょう。